エステルと油脂

【エステル】

〔 カルボン酸 〕RCOOHと〔 アルコール 〕R’OHから水分子がとれて(縮合して)生成する化合物R-COO-R’を〔 エステル 〕という。また-COO-をエステル結合という。低分子のエステルは一般に,〔 芳香 〕を持った液体である。命名は「酸の名前」(「酢酸」など)+「アルコールの炭化水素基名」(エタノールなら「エチル」など)である(「酢酸エチル」など)。また,エステルは1価(-COOH1つ持った)カルボン酸と構造異性体の関係にある

 
 

例えば,酢酸とエタノールの混合物に触媒として〔 濃硫酸 〕を加え加熱すると〔 酢酸エチル 〕が得られる。酢酸エチルは果実のような香りをもち香料に用いられる。天然には果実などに含まれる。

〔 CH3COOH + CH3CH2OH → CH3COOCH2CH3 + H2O 〕

 

エステルに希塩酸や希硫酸を加えて加熱すると,酸のHが触媒になり,カルボン酸とアルコールに分解する。これをエステルの加水分解という。

例題 次のエステルの名称を答えよ。

(1) HCOOCH3  (2) CH3COOCH2CH2CH3  (3) CH3COOCH=CH2

 

(1) ギ酸メチル  (2) 酢酸プロピル  (3) 酢酸ビニル

 

例題 分子式C4H8O2のカルボン酸とエステルの構造式を全て書け。

 

カルボン酸  CH3CH2CH2COOH   CH3CH(CH3)COOH      

エステル  HCOOCH2CH2CH3    HCOOCH(CH3)CH3     CH3COOCH2CH3    CH3CH2COOCH3

 

【油脂】

油脂は3価のアルコールである〔 グリセリン 〕と〔 高級脂肪酸 〕(炭素数の多いカルボン酸)のエステルである。

 
 

油脂の性質

 右上の表は油脂を構成する主な高級脂肪酸である。不飽和脂肪酸を多く含んだ油脂は常温で液体の物(植物性)が多く,飽和脂肪酸を多く含んだ油脂は固体の物(動物性)が多い。不飽和脂肪酸を多く含んだ液体の油脂の二重結合に水素を付加すると硬化して固体となる。このようにして生成した油脂を硬化油という。硬化油の例としてはマーガリンがあげられる。

液体の油脂(不飽和脂肪酸を多く含んだ油脂)のうち,二重結合を多くもったものは空気中の酸素により,二重結合の部分が酸化されながら重合するため固化しやすい。このような油脂を乾性油といい,固化しにくい油脂(二重結合が少ない)を不乾性油,その中間の物を半乾性油という。


けん化

塩基(NaOHKOH)によるエステルの加水分解をけん化という。

 〔 RCOOR’ + NaOH → RCOONa + R’OH 〕

 

油脂のけん化価とヨウ素価

 油脂1分子にはエステル結合が3つあるので,油脂1molをけん化するには一価の塩基(NaOHKOH)が〔 3 〕mol必要である。そこで,油脂1gをけん化するのに必要なKOHの質量〔mg〕をけん化価という。       

 二重結合1つにつき,ヨウ素I21個付加する。そこで,油脂100gに付加するヨウ素の質量〔g〕をヨウ素価という。

 

例題 ある油脂1gをけん化するために必要な水酸化カリウムKOH(式量56)の質量は190mgであり,この油脂100gに付加するヨウ素I2(分子量254)の質量は86.2gであった。次の各問いに答えよ。H1.0C12O16

(1) この油脂の分子量はいくらか。 
(2) この油脂に含まれる脂肪酸は1種類であるとするとき,その脂肪酸の示性式を記せ。

 

(1) 分子量をMとすると,油脂の1gの物質量は1/Mmol〕。この油脂と反応するKOH1/M×3mol〕なので,これを質量にすると,1/M×3×59g〕。この値が190mg(=0.190g)なので,1/M×3×560.190より,M884.2884

(2) この油脂100gの物質量は,100884mol〕。油脂1molあたりの二重結合をxとすると,この油脂の二重結合は,(100884)×xmol〕。この油脂に付加したI286.2/254mol〕で,二重結合のmol=付加したI2molなので,(100884)×x86.2254より,x3。油脂1molには脂肪酸3molからなるので,脂肪酸1つにつき二重結合が1つ含まれることになる。また,分子量が (1) より884なので,つぎのように脂肪酸RCOOH282となる。このRには二重結合が1つ含まれているので,一般式で表すとCnH2n1COOHとなる。よって,H1.0C12O16なので,12n2n11216×21282が成り立ち,n17,示性式はC17H33COOH

 
 

【セッケン】

油脂に水酸化ナトリウムや水酸化カリウム水溶液を加えて加熱すると,けん化されて,グリセリンと脂肪酸ナトリウム(セッケン)が生成する。セッケンは高級脂肪酸(炭素数の多い脂肪酸)のナトリウム塩である

セッケン分子の炭素鎖の部分は水に溶けにくい疎水性の部分で,-COONaの部分は水に溶けやすい親水性の部分である。セッケンのように親水性の部分と疎水性の部分の両方をもつ化合物は水の表面張力を小さくするため,〔 界面活性剤 〕という。

 
 

セッケンの洗浄作用

セッケンを水に溶かすと,疎水性部分を内側に,親水性部分を外側にしたコロイド粒子をつくる。この粒子をセッケンの〔 ミセル 〕という。油は水には溶けないが,セッケン水を加えて振ると油は微細な小滴となって分散する。このような作用を〔 乳化 〕といい,この溶液を〔 乳濁液 〕という。また,乳化作用をもつ物質を〔 乳化剤 〕という。これは油分子がセッケンのミセル内に取り込まれるために起こる。

 

その他の性質

Ca2+Mg2+を多く含む水のことを硬水といい,セッケンはCa2+Mg2+と水に不溶な塩をつくるため硬水や海水では使用できない。セッケンは弱酸である脂肪酸(カルボン酸)と強塩基(NaOH)との塩なので,水溶液は〔 塩基 〕性を示す。

 

合成洗剤

硫酸ドデシルナトリウムC12H25-OSO3Naやアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムCnH2n+1-C6H4-SO3Naはセッケンと同じく疎水性の炭化水素基と親水性のイオンの部分からできていて,合成洗剤として用いられる。いずれも強酸のナトリウム塩だから,水溶液は中性を示す。Ca2+Mg2+とも沈殿を生じないので,硬水でも使うことができる。

 

例題 化合物ABCはいずれも,水酸化ナトリウム水溶液中でヨウ素と加熱すると黄色沈殿を生じる。しかし,これら3種類の化合物のうち,銀鏡反応を示すのはAのみである。化合物Bを濃硫酸と混ぜて140℃に加熱すると,化合物Dが生成する。また,化合物Cを還元したのち,これを濃硫酸と加熱すると気体Eが発生する。Eは,臭素水を脱色する。次の問いに答えよ。

(1) AEにあてはまるものを下の () ( ) から選び,記号で示せ。 

 () CH3CH=CH2  () CH3CH2COOH  () CH3CHO () CH3COCH3  () HOCH2CH2OH 

 () CH3CH2CH3  () CH3CH2OH  () HCOOH  () CH3CH2OCH2CH3

(2) 文中の下線部の反応の名称と,黄色沈殿の分子式を記せ。

 

解答 (1) A ()  B ()  C ()  D ()  E ()  (2) ヨードホルム反応CHI3  

ABCは,ヨードホルム反応を示すのでCH3CH(OH)RCH3CORの構造をもつ。この構造をもつのは()()()である。さらに,Aは銀鏡反応を示すので−CHOをもつ。よってA()BC()())となる。 

Bは,脱水されるので−OHをもっている。よってB()C())となる。BCH3CH2OHで,これを140℃で脱水したものがDである。この温度での脱水では,分子間脱水なので,Dは,ジエチルエーテルCH3CH2OCH2CH3 ()となる。

Eは,(エ)CH3COCH3を還元してさらに脱水することによって,得られる。(エ)CH3COCH3を還元したものは, CH3CH(OH)CH3である。さらに脱水したものは,Br2が付加するので二重結合をもつ化合物になる。つまり,この脱水は分子内脱水で,得られるEはCH2CHCH3 ()となる。

 

例題 次の文を読み,下の問いに答えよ。

 アルコールABCDはそれぞれメタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,2-メチル-2-プロパノールのいずれかである。各アルコールをおだやかに酸化したところ,AからはアルデヒドEが,BからはケトンFが,CからはアルデヒドGが得られたが,Dはほとんど酸化されなかった。アルデヒドEGは容易に酸化されて,それぞれカルボン酸Hとカルボン酸Iになる。I@銀鏡反応を示す。AケトンFは酢酸カルシウムを乾留することによっても得られる

(1) アルコールADの名称を記せ。

(2) EIの構造式を記せ。

(3) 下線部@の原因となる官能基の名称を記せ。

(4) 6.4gのアルコールCをすべて酸化して,カルボン酸Iにした。得られるIの質量は何gか。

(5) 下線部Aの反応を,化学反応式で表せ。

(6) カルボン酸Hに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えたときにおこる反応を,化学反応式で表せ。

 

(1) A 1−プロパノール  B 2−プロパノール  C メタノール  D 2−メチル−2−プロパノール

   (2) E CH3CH2CHO  F CH3COCH3  G HCHO  H CH3CH2COOH  I HCOOH

   (3) アルデヒド基  (4) 9.2g〕  (5) (CH3COO)2Ca → CH3COCH3 + CaCO3

   (6)  CH3CH2COOH + NaHCO3 → CH3CH2COONa + CO2 + H2O      

 

ACは,酸化するとそれぞれアルデヒドEGを生じるので,第一級アルコール(メタノールか1−プロパノール)である。さらにアルデヒドEGは酸化されるとそれぞれカルボン酸HIを生じる。カルボン酸Iは銀鏡反応を示すことから,ギ酸HCOOHであると推測される。そのため,アルデヒドGはホルムアルデヒドHCHOCはメタノールCH3OHであることが分かる。よって,A1−プロパノールCH3CH2CH2OHECH3CH2CHOGCH3CH2COOHであることが分かる。

Bは酸化するとケトンFを生じるので,第二級アルコール(2−プロパノール)であることが分かる。よってFはアセトンCH3COCH3であることが分かる。

Dは酸化されないことから,第三級アルコール(2−メチル−2−プロパノール)であることが分かる。

(4) 46×6.4329.2 

(6) 弱酸の遊離による反応。弱酸の塩の水溶液に強酸を加えると,弱酸ができる(強酸は塩になる)。これを弱酸の遊離という。また,弱塩基の塩の水溶液に強塩基を加えると,弱塩基ができる(強塩基は塩になる)。これを弱塩基の遊離という。